お笑い芸人用語集|意味と由来
かつて「ザギンでシースー(銀座で寿司)」という言い方が、代表的な業界用語として、よくネタにもされていましたが、テレビやラジオの世界でお笑い芸人さんたちが使っている言葉には、俗に言う「ギョーカイ用語」とは違う、様々な「お笑いにまつわる専門用語」があります。
このお笑い用語には、芸人さんも番組内で普通に使っていることから、一般の人たちのあいだで広く浸透している表現もたくさんあります。
分かりやすいお笑い用語で言えば、「ボケ」「ツッコミ」「スベる」は日常で使うことも多いでしょうし、「天丼」「かぶせ」「すかし」など、芸人さんのなかで使われるお笑いのテクニックを表す用語もあります。
また、「コント」「漫才」「顔芸」「ピン芸人」のようなお笑いのスタイルやジャンルを意味する用語もあります。
以下、こうしたお笑いの専門用語を一覧にし、意味や由来などを、一つずつ簡単に紹介したいと思います。
あ行
あるあるネタ
あるあるネタとは、「日常でよくある、思わず〈あるある〉と共感しつつ笑ってしまうような内容を取り入れたネタ」を意味します。
あるあるネタは、基本的にツッコミが必要ないので、ピン芸人が使うことも多いネタのスタイルです。
あるあるネタで代表的な芸人さんと言えば、ふかわりょうさん、つぶやきシローさん、お笑いコンビのいつもここからなどが挙げられます。
>>【ふかわりょう】一言ネタクイズ!伝説ネタ復活でクレームの嵐!?
あるあるネタの起源としては、TBSで放送されていたクイズ番組『クイズ100人に聞きました』(1979年-1992年)の正解判定の際に使われていた、「ある!ある!ある!」というコールに由来する、と言われています。
インターネットでは、1995年に使用されている例まで遡れるそうなので、少なくとも、この時点ですでに「あるあるネタ」という言葉はあったようです。
ちなみに、オーストラリア出身の吉本芸人のチャド・マレーンさんによれば、海外では、「あるあるネタ」というジャンルは確立しづらいと言います。
あるあるネタは、見ている人たちのあいだに、ある程度広く共通の認識があって成り立つジャンルで、欧米では、人種や階層が多様のために、一つのあるあるネタを行なっても、「いやこういうのもあるんじゃないか」「こういうのもあるだろう」となり、「あるある!」とはならないそうです。
暗転
暗転とは、「演劇の世界などで使われる用語で、幕を下ろさずに、舞台を暗くし、その間に場面を変える演出の方法」を意味します。
暗転の対義語として、明転があります。明転とは、「明るいなかで舞台上の転換をすること」を指します。
舞台上の俳優や装置を移動させ、違う場面に移ること自体は、「場面転換」と呼びます。
この場面転換を、いったん暗くして、その暗いなかで行うことを暗転、逆に、明るい状態で場面転換を(あえてお客さんに見せる演出も兼ねている場合が多い)行うことを明転と言います。
「明転」は、転換自体をお客様に見せるものですので、そこに一種の芸術性やストーリー性を持たせる場合が多いようです。
舞台装置と俳優が動くことで移動の時間を表現したり、回り舞台の場合、舞台装置を回すことで回想シーンのように見せたり、また、舞台装置その物が壮大に変化する姿をわざと見せることで、舞台の醍醐味を楽しんでもらったりと、様々な工夫が凝らされています。
暗転は、ライブだけでなく、テレビで芸人さんがコントを行う場合にも多用されます。
イキる
お笑いの世界だけではないものの、芸人さん同士の会話のなかで、「イキる」「イキっている」という言葉を耳にすることがあります。
何をイキッてんねん、というツッコミを聞いたこともあるかもしれません。
イキるとは、もともとは関西地方の方言の「粋がる(自分から、粋だと思って得意になる。 粋人らしくふるまう。)」の略語として使われ、SNSなどの影響もあって全国に広がった言葉で、「自分をかっこいいと思って調子に乗る、虚勢を張る」といった意味になります。
また、派生語として、オタクが、オタクの知識を振りかざしたり、まるでリア充(陽キャ)のように振る舞うことを、「イキリオタク」と表現することもあります。
自然体ではなく、不自然に背伸びをして強がったり昂ぶっている様子を、「イキる」と表現しているようです。
いじる
いじるとは、よくお笑いの世界で使われる言葉で、「ボケを交えて相手のことをからかう」ことを意味します。
番組のMCのように、色々な人をいじるのが得意な芸人さんもいれば、愛すべき「いじられキャラ」のような芸人さんもいます。
有名ないじられキャラのお笑い芸人には、たとえば出川さん、アンジャッシュの児嶋さん、パンサーの尾形さん、狩野英孝さん、三四郎の小宮さんなどがいます。
いじられキャラの特徴としては、天然、お人好し、ムードーメーカー、リアクションがよい、あまり怒らない、親しみやすい、といった点が挙げられ、これは概ね男女共通の傾向と言えるでしょう。
いじる、という行為については、「いじり」と「いじめ」の違いということも、しばしば社会問題として議論になります。これは、いじりといじめの境界線が曖昧ゆえに生じる問題でもあります。
芸人の土田晃之さんは、いじりといじめの違いに件に関し、「いじめといじりは全然違うものだと思っていて、いじりは、愛情と信頼関係があって成立するものだと思う。これをやることによって、やられている側も笑えるかどうか。いじめは、やっている側だけが笑っていること」とコメント。いじりは、いじる側の愛情があり、また、いじられる側との信頼関係もある状態で行われ、お互いに笑えることが重要だと指摘します。
逆に、愛情も互いの信頼関係もなく、ただ馬鹿にするためだけにからかい、やっている自分たちだけが笑っているのであれば、これはいじりではなくいじめではないか、ということになるでしょう。
いちびる
いちびるとは、関西地方の方言で、「ふざけてはしゃぎまわる人、お調子者」などを意味します。
いちびるの語源は、もともと競り市で手を振って値の決定を取り仕切る人のことを「市振り」と言い、やかましく騒ぎ立てることに由来し、転じて、ふざけて大騒ぎすることを「いちびる」というようになります。
使い方としては、「いちびっとったらあかんぞ(調子に乗っていたらだめだぞ)」「いちびってんちゃうぞ(調子に乗るなよ)」などが挙げられます。
いちびるの類語の方言では、「ちょける」という言葉もあります。
ちょけるとは、「ふざける」という意味で、強い悪ふざけではなく、ちょっとふざけるといった多少軽いニュアンスになります。
板
板とは、「劇場などの舞台」を意味します。舞台を板と呼ぶのは、舞台の床の素材が木材であることに由来します。
この板に関連し、板付という言葉もあります。板付とは、「最初から演者が舞台(板)上にいること」を指します。
お笑いのネタでは、コントなどの場合、基本的に「板付」で始まります。
板も、板付も、もともと歌舞伎など芝居の舞台に関する専門用語です。
日常で使われる「板につく(積み重ねの結果として立場や境遇が似合ってくる、または、ふさわしい技術が身に付くこと)」という慣用句も、この板付が由来となっています。
ちなみに、漫才の「板」と言えば、M-1グランプリのスペシャルムービーの曲に使われているCreepy Nutsの『板の上の魔物』という曲もあります。
この『板の上の魔物』を使用したM-1グランプリ2020の予告動画は、公開当時「かっこいい」と話題になっています。
一発ギャグ
一発ギャグとは、お笑いの芸の形の一つで、「短い時間のあいだに言動や仕草で笑いを取る手法」を意味します。
一発ギャグによって、大きな笑いを生む、というのはなかなか難しさもあるものの、持ちギャグさえあれば手軽に行うことができ、場の空気を瞬時に掴むことができます。
また、そのギャグによって世間的な認知度が上がることも少なくないので、一発ギャグは、お笑い芸人の世界で重宝されています。
有名な一発ギャグとしては、たとえば、サバンナの八木さんがしゃがみながら「ブラジルの皆さん聞こえますか〜!」と叫ぶ、というネタがあります。その他、狩野英孝さんの「ラーメン、つけめん、僕イケメン」や、ダイアンの津田さんの「ゴイゴイスー 」なども代表的な一発ギャグです。
FUJIWARAの原西さんも、無数の一発ギャグを持っていることで知られています。
このように、◯◯と言えば、このギャグ、というように、代名詞的なギャグを持っている芸人さんも少なくありません。
ギャグの得意な芸人さんのことを、「ギャガー」と言います。
一発ギャグの類義語としては、モノマネや腹踊りなども含め、もう少し幅広く、短時間で盛り上げられる「芸」を指す「一発芸」という言葉もあります。
一発屋芸人
一発屋芸人とは、「持ちギャグなどが世間にはまってブームが起こり、大ブレイクしたのちに、やがてブームが去ってテレビから姿を消していく芸人」を意味します。
印象的なフレーズによって一斉を風靡し、流行語として記憶に残っているネタも数多くあります。
また、テレビでは出演が減ったとしても、その当てた一発による知名度によって地方営業などに呼ばれ、生活が安定している芸人さんも少なくないようです。
最近では、ヒロシさんのように、趣味のアウトドア、キャンプを活かしてYouTubeで活躍している芸人さんもいます。
一発屋という言葉自体は、芸人だけでなく、歌手やバンドなどミュージシャンに使うこともあります。
歴代の流行した代表的な一発屋芸人の年代と名前の一覧は、以下の通りです(参照 : 流行した一発屋芸人一覧)。
流行年 | 芸人名 | ギャグ |
---|---|---|
1997年 | つぶやきシロー | あるあるネタをつぶやく |
1998年 | パイレーツ | だっちゅーの |
1998年 | 松本ハウス | 加賀谷でーす |
2002年 | 三瓶 | さんぺ~です |
2003年 | ダンディ坂野 | ゲッツ! |
2003年 | テツ and トモ | なんでだろう~ |
2003年 | はなわ | SAGA佐賀 |
2004年 | 波田陽区 | って言うじゃない…○○斬り!…残念! |
2004年 | ヒロシ | ヒロシです |
2004年 | 長井秀和 | 間違いない |
2005年 | レイザーラモンHG | フォー! |
2005年 | 小梅太夫 | チッキショー |
2005年 | レギュラー | あるある探検隊 |
2005年 | パッション屋良 | んー、んー!! |
2005年 | ハイキングウォーキング | 卑弥呼様〜!! |
2006年 | 長州小力 | キレてないですよ |
2006年 | にしおかすみこ | にしおか~すみこだよ |
2006年 | 永井佑一郎 | バカテンポ(アクセルホッパー) |
2007年 | 小島よしお | そんなの関係ねぇ はいっ!オッパッピー |
2007年 | 藤崎マーケット | ラララライ体操 |
2007年 | ムーディ勝山 | 右から来たものを左へ受け流すの歌 |
2007年 | にしおかすみこ | にしおかぁ~、すみこだよぉ~ |
2007年 | ですよ。 | あ~い、とぅいまてぇ~ん |
2007年 | いつもここから | 悲しいとき~ |
2007年 | 鳥居みゆき | ヒットエンドラン |
2008年 | エド・はるみ | グ~! |
2008年 | 世界のナベアツ | 3の倍数と3が付く数字のときだけアホになる |
2008年 | 髭男爵 | ルネッサ~ンス |
2008年 | ジョイマン | ヒウィゴ~ ありがとう オリゴ糖 |
2008年 | 天津・木村 | エロ詩吟 |
2008年 | フォーリンラブ | イエス、フォーリンラブ |
2008年 | クールポコ | な~に~、やっちまったなぁ! |
2008年 | 響 | どうもすいませんでした |
2009年 | ゆってぃ | ちっちゃいことは気にすんな、それワカチコワカチコ~ |
2009年 | 2700 | 右ひじ左ひじ交互に見て |
2010年 | ねづっち | ととのいました |
2010年 | AMEMIYA | 冷やし中華はじめました〜 |
2011年 | モンスターエンジン | 神々の遊び |
2011年 | 楽しんご | ドドスコスコスコ LOVE注入 |
2012年 | スギちゃん | ワイルドだろぉ |
2012年 | COWCOW | あたりまえ体操 |
2012年 | ハマカーン | ゲスの極み |
2013年 | キンタロー。 | フライングゲット! |
2014年 | どぶろっく | もしかしてだけど~ |
2014年 | 日本エレキテル連合 | ダメよ~ダメダメ |
2015年 | 8.6秒バズーカー | ラッスンゴレライ |
2015年 | クマムシ | あったかいんだからぁ~ |
2015年 | エグスプロージョン | 本能寺の変 |
2015年 | ピスタチオ | なんの |
2015年 | バンビーノ | ダンソン、ニーブラ |
2015年 | 永野 | ゴッホ(ピカソ)より、普通に、ラッセンが好き |
2015年 | とにかく明るい安村 | 安心してください、穿いてますよ |
2015年 | 厚切りジェイソン | Why Japanese people!? |
2016年 | ピコ太郎 | ペンパイナッポーアッポーペン |
2017年 | ブルゾンちえみ | 35億 |
2017年 | サンシャイン池崎 | イエ~!、ジャ~スティス! |
2017年 | にゃんこスター | リズムなわとび |
2017年 | アキラ100% | 全裸に股間をお盆で隠しただけの姿 |
2018年 | ひょっこりはん | はい!ひょっこりはん |
一覧を見てもわかるように、一発屋芸人と称される芸人の多くは、印象的な一発ギャグやネタを持ち、また、必ずしも短期間のあいだにテレビで見なくなる芸人ばかりではありません。
色物
色物とは、「主となる演芸の彩りとなる芸」を意味します。
主となる演芸に、彩りを添える芸。この主の演芸と色物は、場所によって違いが見られ、たとえば落語が中心の寄席では、落語以外の漫才や手品が色物となり、漫才が中心の演芸場では、落語が色物という扱いになります。
また、芸能界の場合、お笑いや異色なタレントのことを色物と称することがあります。もともと、落語に色を添える芸として、漫才が色物と呼ばれ、やがてお笑いが色物と言われるようになります。
また、転じて、「その業界において主要な位置にないもの」のことも色物と称します。
大喜利
大喜利とは、「司会者などからお題が出され、そのお題に対する答えの面白さによって、芸人たちが競い合う形式」を意味します。
有名な大喜利番組としては、『笑点』や『IPPONグランプリ』があり、大喜利も含めた、複合的な競技バラエティとして『千原ジュニアの座王』も人気の番組の一つです。
大喜利の起源を遡ると、江戸時代末期の歌舞伎で、最後に芝居を明るく閉じようと、前の筋立てと縁のない一幕を付けた「大切り」があります。
この歌舞伎の「大切り」に由来し、転じて、寄席でトリの演者が終えたあと、ないしは、トリが不在の際、最終演目として、大勢で珍芸などを披露することを「大喜利」と称するようになります。
大切りを、大喜利と書くようになった由来としては、「客も喜び、演者も利を得る」という意味合いから、この字が当てられた、という説が有力です。
NSC
NSCとは、「お笑いを中心とした芸能事務所の吉本興業が、1982年に創立した芸人の養成所」のことです。
NSCは、「New Star Creation」の略で、正式名称は「吉本総合芸能学院」と言います。
NSCの入学資格は、中学校卒業(あるいは卒業見込)以上で、在学期間は基本的に1年間となっています。
NSC大阪校の第1期生として、ダウンタウン(同期に、トミーズ、ハイヒール)を輩出している他、NSCからは数多くのお笑いスターが誕生しています(参照 : NSC出身芸人の一覧)。
一方で、NSCに通っていない吉本芸人も存在し、たとえば、千鳥、ミルクボーイ、パンクブーブー、NON STYLE、霜降り明星など、M-1チャンピオンやテレビで大活躍しているスターもいます。
お約束
お約束とは、「〈決まりきった内容〉〈大勢の人間が心待ちにしている内容〉〈定番ネタ〉〈お決まりの展開〉など、暗黙の了解として決まっている(約束されている)定番の流れ」を意味します。
たとえば、ドリフターズのコントで、タライが落ちる、という展開は、「お約束」です。
また、ダチョウ倶楽部の、「俺がやるよ」「じゃあ俺がやるよ」「じゃあ俺がやるよ」「どうぞどうぞ」という流れもお約束です。
その他、お笑い以外でも、ドラマやアニメ(パンをくわえて走っている少女は曲がり角で運命の人とぶつかる)など、「お約束の展開」はよく見られます。
お笑い第7世代
お笑い第7世代とは、「活躍中の若手芸人たちを、一括りに世代でまとめ、〈お笑い第7世代〉と名付けたもの」のことです。
起源は、霜降り明星のせいやさんが、M-1グランプリ2018の優勝のあと、コンビがパーソナリティを務める深夜のラジオ番組で、勢い余って使った「お笑い第7世代」という言葉に由来します。
もともと、ダウンタウンやウッチャンナンチャンが、一般的に「お笑い第3世代」と称され、その世代名に着想を得た呼称ですが、「7」という数字そのものは、せいやさんの思いつきで、特に基準はなく、テレビなどで「第7世代」という言葉が使われるうちに、誰がどの世代か、という話がまとまっていくことになります(出典 : お笑い第7世代のメンバー一覧)。
有名なお笑い第7世代の芸人としては、霜降り明星、ハナコ 、宮下草薙、コロチキ、EXIT、四千頭身などが挙げられます。
か行
顔芸
顔芸とは、「面白い表情をつくって人を笑わせる芸」を意味します。
パンサーの尾形さんのように、自分のせいでちょっと変な空気になったあとに顔芸で勝負する、という芸人さんもいます。
顔芸は、芸人さんだけでなく、俳優さん女優さんなどの演技について使われることもあります(顔芸の得意な俳優さんとして、山田孝之さんや香川照之さんなどがいます)。
漫画やアニメの場合、表情が実写よりも自由度は高いので、いっそう感情をダイレクトに表現した顔芸が映えます。
顔芸の類義語に、「変顔」という言葉もあります。
顔芸と変顔は、大体同じような意味ですが、違いとしては、変顔のほうが、「より意図的で、大きな表情の変化」なのに対し、顔芸は、「表情の繊細な変化(たとえばあえて真顔をするなど)も含めた芸」と言えるかもしれません。
かぶせ
お笑い用語の「かぶせ」や「かぶせる」とは、「一つのボケに、もう一つボケを重ねるテクニック」のことを意味します。
日常的に使用される「かぶせる」と言うと、「上から覆うようにものを載せる」「人に罪や責任を負わせる」など、ある一つのものに、上から覆って重ねるようなイメージですが、お笑いの世界の「かぶせ」も、同じく、ボケを重ねる、というニュアンスで使われます。
かぶせと似たような意味の類語で、繰り返しボケなどをかぶせる、「天丼」というテクニックもあります。
上手(かみて)
ライブなど舞台で使われる上手とは、「舞台上の方向を指す言葉で、客席から見て右側」を意味します。
上手の対義語は、客席から見て左側になる下手です。
上手と下手はどっちがどっちと言うことが、一瞬分からなくなるかもしれません。分かりやすく演者の目線から言えば、「左が上手」「右が下手」となります。
この上手、下手という言葉は、お笑いに限らず、音楽なども含め、舞台の現場で全般的に使用される表現です。
なぜ上手、下手という呼称なのか、という由来については諸説あり、その一つとして、古くから偉い人が東側に座り、偉い人が座る上等な席、という理由から、照明がない時代の舞台の東側、すなわち演者から見た左側を上手と呼ぶようになった、という説があります。
古代の日本では、東側に偉い人が座っていました。そして、照明がない時代は明るい南向きに舞台を作っていたため、東側は「演者から見て左」になります。そのため「偉い人が座る上等な席」として、そちらを「上手」と呼ぶようになったという説です。
ガヤ芸人
出演者の多いバラエティ番組などで、メインではない人が、その他大勢のポジションから、積極的に声を出してツッコミを入れたり、大げさなリアクションで場の空気を盛り上げることを「ガヤ」と言います。
ガヤ芸人とは、この「ガヤの役割を担う芸人、あるいは、ガヤの得意な芸人」を意味します。
もともと、ガヤとは、アニメーションのアフレコや洋画の吹き替えで用いられていた用語で、スタジアムでの客の歓声や学校での運動場の掛け声のような、メインシーンの背景の「ガヤガヤ」した台詞の声を「がやの仕事」と呼び、お笑いの「ガヤ」も、この「ガヤガヤ」した声の仕事に由来します。
最初にお笑いの世界で「ガヤ」という表現を使い始めたのは、アニメ作品に声優としての出演経験もあった、よゐこの濱口さんだと言われています。
客いじり
客いじりとは、自分たちで完結する芸ではなく、「ライブや収録に参加している観客にアプローチして笑いを生むこと」を意味します。
芸人は、あくまで自分の芸で笑わせるべきで、古くから、客いじりはタブーだという指摘もあります。
寄席の高座でその場のお客をネタにしたり、直接話しかけたりすることは「客弄り」といってあまり好まれることではない。
寄席のお客は芸を楽しみに来ているのであって、そういう対話を目的に来ているのではないというのがその主な理由。
緊張の(と)緩和
お笑いでよく言われる概念として、緊張の(と)緩和というものがあります。
緊張の(と)緩和とは、落語家の桂枝雀が唱えた、「緊張の緩和によって笑いが生まれる、という理論」が由来です。
たとえば、朝の学校の壇上、厳格な風貌の校長先生が厳かな佇まいで話をするような、生徒たちが「緊張」する場面で、誰かがおならをする、あるいは、校長先生がつまずいたり、話の途中で変な言い間違いをする、といった「緩和」が生じると、笑いが生まれることがあります。
現代のお笑いでも、この緊張と緩和というのは、松本人志さんも語っているように基礎的な技術と考えられています。
この緊張の部分を、あえて作り出す一つとして、「フリ」もあります。
以下は、フリによってしっかり緊張が保たれた上で、緩和されるオチに繋がっていくツイートです。
長文ツイートが多い人はたぶん分かってくれると思うんですけど、一回さらっと書き出した余裕で文字数超えた文章をいかに意味合いを変えず文字数削減するかというゲーム性がツイッターにはありますよね。それがパチッと残り0文字にハマるとなんとも言えない高揚感があり、それに関して僕はプロの域に到
— 減ちゃん (@g_e_n_low) September 16, 2018
わずか140字以内という短い文章のなかで、きっちりとフリが効き、最後にオチが決まっています。
くだり
くだりとは、「漫才やトークの流れのなかの一節」を意味します。使用例としては、「さっきの漫才、あのくだりがよかったよ」といった使い方をします。
くだりは、決してお笑いの世界に限った専門用語ではなく、もともと「小説のあの冒頭のくだり」など、長い文章の一節を指します。
この際の「くだり」を漢字で書くと「件」です。
軍団
お笑い芸人の世界には、代表の芸人の冠名がついた「軍団」という呼称があります。
お笑いの世界における軍団とは、「様々な芸人たちの派閥や飲み仲間のこと」を意味します。
大御所の芸人だけでなく、若手芸人でも、ある程度活躍したり後輩ができてくると、一緒に飲みに行く同期や後輩などを引き連れた、「軍団」を結成することがあります。
代表的なお笑いの軍団としては、たけし軍団、さんま会、竜兵会、軍団山本、マハロ(フジモン軍団)などが挙げられます。
ゲラ
ゲラとは、「よく笑う、笑い上戸の人」を意味します。
いつも笑顔でにこやかな人という意味合いではなく、ツボが浅く、すぐに爆笑するような人のことをゲラと呼びます。
大声で笑う様を表すゲラゲラという擬音語が、ゲラという言葉の由来です。
ゲラは、もともと舞台用語だったようですが、主に関西地方でよく使われ、一般に広がったと考えられています。
こする
お笑いで使われるこするとは、「エピソードトークについて、お客さんに披露する前に、楽屋などで芸人相手に試し、ウケ具合を確認したり、トークを練り上げること。また、同じエピソードを色々な現場で繰り返し使うこと」を意味します。
ネットでも漫画やアニメの好きな人たちのあいだで使われる表現で、こするは、漢字で書くと「擦る」です。
コント
コントとは、「笑いを起こすための短い劇」を意味します。
コントという言葉は、フランス語で「短い物語・童話・寸劇」を意味する「conte」に由来します。
役やキャラクター、舞台などの設定があり、一つの演劇空間で笑いを演出します。コントのなかでも、さらに短いコントの場合は、ショートコントと呼びます。
漫才と比較されることの多いコントですが、漫才との違いとしては、漫才は芸人さんが等身大なのに対し、コントは役に入っている、という点が挙げられます。
そのため、漫才はネタを忘れてもアドリブで挽回できますが、コントでネタが飛ぶと、結構な致命傷になります。
また、最初は漫才の形で入り、「一度練習したいんだよね」「ちょっとやってみるか」などと言ってコントに入る、「コント漫才」もあります。
漫才は、主にしゃべくり漫才とコント漫才に分けられ、コント漫才として有名なコンビでは、サンドウィッチマンなどが挙げられます(もともとコント中心のコンビなどが、漫才の舞台に立つ際に行われることも多いスタイルです)。
サンドウィッチマンの漫才では、等身大の二人の会話という漫才形式で始まり、漫才のあいだにコントが挿入されるスタイルとなっています。
さ行
寒い
寒いとは、お笑いで使う場合、「話がスベってつまらなかった際の空気」を描写する言葉です。
空気が凍りついたり、ウケ狙いでスベったときの状況を、「さぶい」と表現したのは、ダウンタウンの松本人志さんが起源だと言われています。
他にも、松本さんによって広まったとされる表現には、「空気を読む」「イタイ」「ヘタレ(意気地なしや小心者のこと)」「ブルー(精神的に落ち込んでいること)」などがあります。
座付き作家
座付き作家とは、「芸人さんにつき、一緒になってネタや企画を考える人」を意味します。
言ってみれば、芸人さんのブレーンのような存在です。
有名な座付き作家としては、ダウンタウンの座付き作家である高須光聖さんがいます。高須さんは、ダウンタウンと幼少期からの親友ということもあり、かつて放送されていた、松本さんと高須さんの二人で行っていたトークラジオ『放送室』は、業界聴取率の高い伝説的なラジオ番組として語り継がれています。
他に、かまいたちの座付き作家として、森下さん(モリシ)なども知られています(参照 : かまいたちを下支えする、構成作家・森下知哉の幅広すぎる仕事)。
サンパチマイク
サンパチマイクとは、「漫才のときに舞台の中央に置かれるセンターマイクで、SONYから1970年に発売されたコンデンサーマイクC-38B」のことを意味します。
漫才にとっての象徴とも言えるサンパチマイク。サンパチという名前は、このC-38B(1970年発売)というマイクの機種名に由来します。
サンパチマイクはまだ購入が可能で、値段は、税込138380円(SONY / C-38B)です。
JCA
JCAとは、「お笑い事務所の人力舎の養成所」のことです。
JCAは、人力舎(Jinrikisha)、キメラ(Chimera)、ASH&Dコーポレーションの略で、1992年開校の東京初のお笑い専門学校です。
JCAの第1期生には、お笑いコンビアンジャッシュの児嶋さんがいます。
シュール
シュールとは、芸術の用語である「シュルレアリスム(超現実主義)に由来し、お笑いで使われる場合は、「絶妙で不思議な空気感の笑い」を意味します。
日常的にも、「その状況、すごいシュールだね」などと頻繁に使われることの多い言葉です。
ナイツの塙さんと、東京03の飯塚さんが、シュールとは何か、という話をした際に、その特徴の一つとして、「代弁者がいない」という点を挙げています。
この「代弁者がいない」ことによって不思議な空気感に囲まれ、その空気感そのものを、「シュール」と捉えていることも多いのではないでしょうか。
>>【笑辞苑】東京03飯塚と語る!元祖シュール芸人は●●…!【ナイツ塙】
ただし、この空気感が、笑えるかどうか、というさじ加減は難しく、この辺りが、「シュールなお笑い」と「単なるナンセンス」の違いと言えるかもしれません。
シュールの対義語としては、王道やありふりれたものを指す、ベタという言葉があります。
賞レース
芸人の世界の賞レースとは「お笑いのコンクール、大会のこと」を意味します。
代表的な賞レースには、M-1グランプリ、キングオブコント、R-1グランプリの他に、上方漫才大賞、ABCお笑いグランプリ、NHK新人お笑い大賞などがあります。
すかし
すかしとは、「本来ならツッコミを入れたり、ボケで応対するなど、リアクションをする場面で、軽いリアクションや無視によって受け流すお笑いのテクニック」のことです。
すかしのはっきりとした由来はわかりませんが、一般的に使われる「肩透かし」などの「透かし」のニュアンスが、お笑いの世界でも使われるようになったと考えられます。
すかしは、上司や先輩に対して行うと、場合によっては失礼に当たり、受け流す強度やタイミングも難しい技術ですが、すかしを行うこと自体は簡単なので、割と一般社会で乱用されがちなテクニックでもあります。
スベる
スベるとは、お笑いで、「面白いことを言ったつもりなのに、笑いが起きずに冷めた空気にしまうこと」を意味します。
お笑いのスベるは、「滑る」に由来し、芸能界において、1990年代頃から上方芸人が使用した表現と言われています。
スベることを、あえて芸の一つにする「すべり芸(スベったあとの空気やリアクション、周囲からのツッコミで笑いを取る)」もありますが、芸人としてどうなのかと、すべり芸には賛否両論あります。
すべり芸を一つの芸として売りにしている代表的な芸人には、ますだおかだの岡田さんが挙げられます(参照 : 岡田圭右「スベリ芸」で売れた異色の芸能人生)。
その他、すべり芸人として名前が挙がる人には、オードリーの春日さん、なかやまきんにくんさん、ダンディ坂野さんなどがいます。
スベるの対義語として、笑いが起きることを、ウケると言います。
袖
袖とは、「舞台の下手と上手の側の観客席からは見えない両脇の奥のこと」を指します。
舞台袖という言い方もします。
芸人が舞台に挙がっているとき、他の芸人たちが袖に集まるなど、舞台袖で観ている芸人さんが多いほど実力があると考えられています(出典 : 三四郎が見た、舞台袖に芸人を一番集める人物は「永野」「ザコシショウ」「バイきんぐ」)。
芸人さんのなかには、客席より舞台袖の芸人たちの笑いを意識している芸人さんもいるようです。
た行
つかみ
つかみとは、「お笑い芸人が観客を引きつけ、自分たちの空気をつくるために最初に放つギャグやボケ」を意味します。
冒頭のつかみ次第で、舞台とお客さんの距離も縮まり、ネタの世界にも入りやすくなります。
>>好きな漫才のつかみは!? M-1決勝で先輩芸人が見せた革新的なつかみとは? 粗品車の免許取る!?【霜降り明星】
漫才のようなネタだけでなく、「トークのつかみ」という言い方もし、講演や説明会の冒頭で聴衆の関心や興味を高めるために話す事柄も指します。
ツッコミ
ツッコミとは、「漫才やフリートークの場で、ボケに対し、指摘したり、合いの手を入れるお笑いの基本的な技法や役割」の一つです。
ツッコミの動詞は「つっこむ」です。
代表的なツッコミのフレーズや手法は、関西弁で「なんでやねん」と言って頭をはたく、といった方法があります。
その他、言葉巧みに比喩を使った、「たとえツッコミ」もあります(参照 : 例えツッコミ一覧)。
ボケの対義語として、ツッコミがあり、また海外には基本的にツッコミの文化はないようです。
まず彼が指摘するのは、海外の笑いはクスッと笑えるのに対して、日本は声を出して笑えるということ。その違いは何かといえば、ツッコミの有無だ。海外は一人で舞台に立ってしゃべりまくるスタンダップ・コメディが主流。皮肉っぽかったり、斜に構えたり、ストレートな笑いにはならないという。
一方で、日本はコンビ芸が多く、常識人であるツッコミが笑いを回収してくれるため、ボケはいくらでもボケられる。笑いの可能性を広げられると分析する。
ツボ
お笑いにおいてツボとは、「それぞれ人が笑うポイント」を意味します。
用例としては、笑うポイントが似ていることを、「笑いのツボが合う」、笑いが止まらなくなることを「ツボに入った」、簡単なことですぐに笑うことを「ツボが浅い」などと表現します。
恋愛や友情など人間関係でも、「笑いのツボが合う」というのは結構重要な点と言えるのではないでしょうか。
爪痕を残す
若手芸人などが、大きな番組や舞台でチャンスをもらった際に、「爪痕を残したい」と表現することがあります。
爪痕を残すとは、「番組にその芸人が出演し、しっかり存在感を残した」という際に使います(参照 :『ラヴィット!』最も爪痕を残したのはおいでやす小田!ランキングで振り返る爆笑の1年)。
最後まで勇気を出せずに無難に終わるくらいなら、思いっきり大振りをして空振りしてもいいから、爪痕を残したい、という意気込みで若手芸人さんがテレビに挑むことも少なくないのでしょう。
ただ、逆に空回りして大怪我をする場合もあり、番組を壊してしまうと次がない、というリスクも孕んでいます(参照 : バカリズム「お前の爪痕残すための番組じゃない」地元ロケでのブチギレ事件 カメラの前で激怒したワケ)。
出オチ
出オチとは、お笑いの用語で、「登場した瞬間、すでに笑いを取る状態であること、また、出た瞬間が笑いのクライマックスであること」を意味します。
オチは、「話の落ち」などと言われるように、本来終わりに来るはずなのに、出た瞬間に到来することから、「出オチ」と呼びます。
共演者から、「出オチやないか」とツッコミを入れられることもしばしばで、出オチは、初っ端に勝負を仕掛けることから、尻すぼみになる可能性も少なくありません。
鉄板
お笑いの世界で鉄板とは、「必ず外さない、確実なもの」といった意味で、絶対にウケるネタを「鉄板ネタ」「鉄板のギャグ」などと言います。
もともと昭和の中期頃から、競馬や競輪などギャンブルの世界で、鉄の板が硬いことに由来し、手堅く確実なレースを「鉄板レース」と呼んでいたことから、2000年代に入り、お笑いの世界でも「鉄板」が使われるようになります。
また、日常用語としても、確実なものや定番のものを指す「鉄板」という表現が広まっています。
出囃子
出囃子とは、「お笑いで芸人が舞台に出ていく際にかかるテーマソングのこと」です。
芸人さんが、ライブの際に使う出囃子として、自分の好きな音楽を選ぶこともあれば、M-1グランプリのように共通の出囃子が使われることもあります(参照 : 芸人出囃子集)。
ちなみに、有名なM-1グランプリ決勝(ファーストラウンド)の出囃子の曲名は、Fatboy Slimというアーティストが歌う『Because We Can』です。
Fatboy Slim – Because We Can
M-1の登場シーンで使われる出囃子の歌詞、イメージでは「げつ、ぎゃんぎゃんぎゃんぎゃんぎゃーん」といった印象ですが、一体なんて言っているのでしょうか。
歌詞を見ると、英語で、「Yes we can can can can can can ……oh,oh(そうさ、俺たちはできる、できる、できる、できる)」と言っています。
また、M-1最終決戦の出囃子は、Sam Spenceというアーティストが演奏する『Salute to Courage(勇気に敬意を表する)』という曲で、歌詞はありません。
出囃子という文化は、もともと落語の世界で落語家や講談師が高座に上がる際にかかる音楽に由来します。
出待ち
出待ちとは、「ファンが劇場や放送局の外などで、出入り口から出てくるのを会いたくて待っていること」を意味します。
バカリズムさんは、以前ある番組で、出待ちがすごく多い芸人はあまり面白くない、と持論を展開しています。
天丼
天丼とは、お笑いのテクニックを指す用語で、「同じボケやギャグを、二度、三度と繰り返すことによって笑いを生み出す手法」を意味します。
天丼を使う場合、言葉だけでなく、身ぶり手振りやリアクションなどを繰り返すこともあります。
また、間を置かずに繰り返すこともあれば、少し時間を置いてからかぶせることもあるなど、幅広く解釈ができ、あちこちで見られる技法です。
天丼という言葉は、食べ物の天丼に海老天が二本入っていることに由来すると考えられています。
天然ボケ
天然ボケとは、「通常ボケが意図的に行われるものであるのに対し、自然と行なっている言動自体が、ボケのように面白い人や性格のこと」を意味します。
短縮して「天然」などと言うこともあります。
出川さんや狩野英孝さんなどは、天然キャラとしても愛されていますし、女性アイドルに対して使うことも多い言葉です。
類義語として、「不思議ちゃん」という表現もありますが、不思議ちゃんの場合は、若干冷笑混じりの言い方で、天然ボケのほうが、笑いを誘発する態度を指す意味合いが大きい言葉です。
とちる
とちるとは、「舞台などでうろたえ、拍子を失い、せりふやしぐさを間違えること」を意味します。
お笑いの世界の専門用語や方言ではなく、もともと浄瑠璃、歌舞伎の世界の言葉だったのが、舞台だけでなく、一般社会にも広がり、芸人の世界(遅刻を指す場合が多い)でも使われるようになります。
とちるは、失敗やミス、焦ってうろたえることも指します。
語源をさらに遡ると、栃の木の実から作る栃麺は、手早く伸ばさないと固まってしまうため、迅速さが求められ、その栃麺を作る様子のせわしなさに由来し、うろたえて慌てること、慌て者のことを表す「とちめく」という言葉が生まれます。
その「とちめく」が、「とちる」になったと考えられています。
早とちり、という表現も、このとちると同根の言葉です。
な行
ネタ見せ
お笑い芸人には、ネタ見せと呼ばれる行事があります。
ネタ見せとは、「芸人が、新作のネタを作り、みんなの前で披露する行事」のことで、ネタを見せる相手は、先輩芸人や、事務所のスタッフ、テレビのディレクターや放送作家などになります。
芸人は、ネタ見せで色々と厳しいダメ出しを受け、落ち込むことになります。
また、ネタ見せの会場には、同じ若手芸人が集められ、観客としても存在し、言わばライバルである他人のネタで笑うことはほとんどないゆえに、ネタ見せ会場は重たい空気が流れるようです。
ノリツッコミ
ノリツッコミとは、「ボケに対し、いったんそのボケに乗りながら、途中でツッコミを入れるお笑いのテクニック」を指します。
ノリツッコミは、相当難しい技術で、「そうそう、これをこうして……ってなんでやねん!」といった形になりますが、わざとらしいとスベることも少なくありません。
ノリツッコミのうまい代表的な芸人さんとしては、明石家さんまさんが挙げられます。
は行
はける
はけるとは、「舞台用語で、舞台上から演者や道具類が袖に消えること」を意味します。
はけるという言葉を漢字で書くと、「捌ける」となります。一般的に使う場合、滞りなく流れ去る、という意味です。
バラシ
バラシとは、芸能界の言葉で、「諸事情によって出演依頼がキャンセルとなる」ことを指します。
このバラシから派生し、「仮バラシ」という言葉もあります。
仮バラシとは、「スケジュールを仮で押さえておきながら、事情により出演依頼をキャンセルする」ことで、仮押さえが、バラシになった、ということを指します。
番組側が、出演してほしい芸人やタレントに依頼し、万一出演が叶わなかったときのために、補欠で別のタレントを押さえておくことになります。
仮押さえされたタレントは、実際にどうなるか、スケジュールを空けて待っている必要があります。
そして、番組側の第一志望だったタレントの出演が決まれば、仮押さえされたほうのスケジュールは白紙になります。
このことが仮バラシと呼ばれ、『アメトーク』では、以前、仮バラシを特集した「(仮)バラシ芸人〜急にキャンセルされる補欠たち〜」という企画も放送されています。
ビッグ3
ビッグ3とは、「明石家さんま、タモリ、ビートたけしの3人の大御所芸人」を指します。
頭に「お笑い」をつけ、「お笑いビッグ3」と言われることもあります。
1990年頃から、番組をきっかけにビッグ3という言葉が使われるようになったので、3人が3、40代の頃には、すでにビッグ3と呼ばれていたことになります。
ひな壇芸人
ひな壇芸人とは、雛人形のように階段状の座席に着席している様子に由来し、「数名以上のトーク番組やバラエティ番組で、準レギュラーや、準レギュラーに類する頻度で出演する芸人」を意味します。
過去には、2009年に流行語大賞にもノミネートされ、いっときの流行ではなく、「ひな壇芸人」というお笑いの世界の一般的な用語として定着しています。
品川庄司の品川さんは、ひな壇芸人に関して、「裏回し型」「天然・自由演技型(いじられ役)」「ガヤ芸人」という風にスタイルを分類しています。また、一つのスタイルに特化するだけでなく、複数のスタイルや役割をこなす芸人もいます。
ひな壇芸人として力を発揮し、今はMCとして活躍している芸人さんも多数います。
平場
平場とは、「漫才やコントのネタではなく、ひな壇トークやロケ、MCなど、フリートークで自由にやりとりをする場所」を意味します。
発想力や演技力などのネタに強い芸人、アドリブ力に長けた平場に強い芸人といます。
そのため、ネタの賞レースで結果を残しながら、平場が苦手で、テレビではなかなか見せ場がつくれない、という芸人さんもいます。
ピン芸人
ピン芸人とは、「コンビやトリオなどグループに属さずに、一人で活動する芸人のこと」です。
ピン芸人のピンとは、ポルトガル語で「点」を意味する“pinta”に由来し、賭博用語で数字の1を意味します。「ピンからキリまで」のピンも同様です。
ピン芸人の王者を決める大会として、「R-1グランプリ」があります(参照 : R-1グランプリ歴代優勝者一覧)。
代表的なピン芸人には、出川哲朗さん、陣内智則さん、劇団ひとりさん、バカリズムさん、ハリウッドザコシショウさんなどがいます。
また、普段はコンビで活動している芸人さんでも、一人で仕事を受けるときには、「ピンでの仕事」などと言うこともあります。
ちなみに、おぎやはぎの矢作さんは、劇団ひとりさんのことをあだ名で「ピンちゃん」と呼んでいます。
もともとは、「劇ピンちゃん」だったようです(参照 : 劇団ひとりのあだ名、ピンちゃん)。
フリ
フリとは、「ボケやギャグなどのネタを行う前段階で、そのネタに関連することを話すなど、ボケへの道筋を作るための言動」を意味します。
フリで緊張を演出し、緩和する、予想を裏切る(逆に「お約束」の展開にする)、ということによって、笑いが生まれます。ネタ振り、前フリなどとも言い、フリが効いている、といった言い方もします。
フリの対義語として、オチがあります。振って、振って、落とす、というのが、笑いの一つの基本的な流れになります。
ブリッジ
ブリッジとは、「ショートコントや漫談など短いネタを連続で披露する際、ネタとネタのあいだにはさむ言葉や動作」を意味します。
ブリッジは、基本的にギャグの一種ですが、複数回使用されるのが特徴です。
ブリッジの例としては、たとえば、アンガールズの「じゃんがじゃんが」、三瓶さんの「さんぺいです」、長井秀和さんの「間違いない」などが挙げられます。
もともとブリッジという言葉は、放送・舞台用語に由来し、テレビ・ラジオ番組や舞台劇のなかで、二つのシーンの橋渡しをするための音楽や効果音などを指します。
プロレス
お笑いやテレビの世界で、「あくまでお互いに理解した上で、場を盛り上げるために言葉の激しい攻防を繰り広げること」を、比喩としてプロレスと表現することがあります。
ある芸人さんが、毒舌を吐いたり、相手に攻撃的な絡みをし、受け手もまた、その絡みが悪意ではないと把握した上で、激しく反撃するなどの対立的なリアクションをすることで笑いに繋がる展開を生み出します。
プロレスが好きな芸人さんが多いこと、また、ある種の演出的な「攻め」と「受け」によって、お客さんもエキサイティングするなど、笑いとの共通項も見られることから、喩えとして「プロレス」という表現が使われる、という背景もあるようです。
ベタ
ベタとは、「ありきたり、そのまま、面白みに欠ける」という意味です。
ベタなボケ、と言うと、よくある、面白みに欠けたボケという意味合いになります。
ベタの語源を見ると、もともと左官業の言葉で、ペンキを均一に塗る事を「ベタ塗り」と呼び、この「真っ平らに塗る」という部分から、なんの変化もなくひねりのないという意味の言葉として、テレビ業界などを中心に「ベタ」という表現が浸透していったと考えられています。
ベタを二度繰り返し、「ベタベタ」(このドラマ、ベタベタな展開だね)と表現することもあります。
ベタの類義語としては、「王道」などがあり、対義語としては、「シュール」が挙げられます。
編集点
編集点とは、映像業界の用語で、「カットや繋ぎなどをするための間の部分」を意味します。
司会者などが、「それでは」「以上ですね」など、編集点となりそうな間を作り、芸人さんたちが、逆にその部分をいじって笑いにすることもあります。
ボケ
ボケとは、「漫才やトークの掛け合いのなかで、冗談を言ったり、あえて間違いを織り交ぜたり、面白い動作をするなど、本来の流れとはちょっと変わった部分を出すことによって、笑いを生み出す役割や行為」を意味します。
動詞形で、「ボケる」という言い方もします。
一般的に、お笑いのなかで、「ボケ」は大抵、その訂正役として「ツッコミ」という役割とともに成り立っています。
誰かがボケる、そのボケにツッコミ(関西弁で代表的なツッコミとして「なんでやねん!」)を入れる、その組み合わせで笑いが生じる(正確には「フリ」も重要)という流れが代表的です。
ボケは、もともと「とぼけ」と呼ばれ、「つっこみ、とぼけ」という役割で紹介されていたのが、転じて、「つっこみと、ぼけ」になったという説もあります。
ま行
間
間とは、お笑いの一つの基本的な技術で、「沈黙や表情といった余白の部分を多く取ったり、逆にすかさずボケたり、ツッコミを入れる際にいったん待つなど、コミュニケーションにおける幅広い距離感(間合い)」を意味します。
用例として、「間を取る」「間がいい(悪い)」「間抜け」などと言います。
お笑いに限らず、歌舞伎役者の6代目尾上菊五郎が、「間は魔」という言葉を残すほど、芸能にとって「間」は相当重要な要素と言えるでしょう。
前説
前説とは、「劇場での公演やテレビの公開放送などで、本番前に観客に行う説明のこと」を意味します。
もともとは、活動写真弁士が、映画の上映前に行った説明のことを「前説」と呼んだことが始まりです。
前説では、観客に対する見学マナーなどの注意事項の他に、拍手や笑い声のタイミングの説明をします。
また、若手芸人が、場の空気をつくるために、漫才やコント、フリートークなどを行うこともあり、番組の前説は、若手の登竜門的な場でもあります。
マンキン
マンキンとは、「全力でやる」という意味で、「マンキンでギャグをやる」といった使い方がされます。
マンキンは、関西弁などの方言ではなく、もともとは小籔さんが作った言葉で、お笑い界でときおり芸人さんたちのあいだで使われている用語です。
20年以上前から、小籔さんが、「マンキンタン(という漢方薬)を飲んでるくらい元気一杯にやる」といったニュアンスで使い出したことに由来します。
もともとペナリティのワッキーさんが滑っても滑っても全力でボケ続けている様子を、小籔さんが上記のようにマンキンタンという言葉を使って表現したことから始まったので、「マンキン」は、ニュアンスとしては、駄目でも自信がなくても全力でやり切る、といった感覚で使われている印象を受けます。
回し・裏回し
回しとは、「番組のMCが、話を出演者に振ってそれぞれの良さを引き出したり、番組を展開、進行すること、トークを回すこと」を指します。
回しの派生語に、「裏回し」という言葉もあります。
裏回しとは、「メインのMCではなく、ひな壇芸人などが、全体の展開や意図を汲み取りながらさり気なく話を展開すること、またその役割」を意味します。
裏回しに長けている芸人さんは、その後、回しをするMCとして活躍することも少なくありません。
以前、明石家さんまさんは、裏回しに関して、「MCのメインがいてて回して、足らない所をスッと補って先に進む言葉のパスをあげるっていう。裏回しって新しい言葉やねんけど。まだここ数年やな。裏回しっていう。俺らの時代は裏回しなんて誰も(使って無かった)」と語っています。
漫才
漫才とは、「お笑いの代表的なスタイルで、掛け合いのなかで笑いを生んでいく演芸の一種」です。
トリオ漫才もありますが、基本的にはコンビで、ステージ上のマイクを挟み、二人でボケとツッコミの応酬から笑いを生む、というスタイルが中心です。
現在の漫才のスタイルとしては、主に「しゃべくり漫才」と「コント漫才」に分かれます。
漫才を行う者は、一般的に漫才師と呼ばれます。
漫才の王者を決める大会として、もっとも有名なものが、年末に開催される「M-1グランプリ」です。M-1グランプリでは、果たしてこれは「漫才」なのか、と議論になることもあります。
見切れる
見切れるとは、演劇やテレビ業界の用語で、「本来なら見えてはいけない裏方などが見えたり映ったりすること」を指します。
言わば放送事故の一種で、裏方スタッフが見切れる、といった使い方をします。
一方で、近年では逆の意味でも使われ、「写真や映像で、フレームに人物などの全体が収まらず、一部が切れている」状態を意味することもあります(用例「集合写真で端の人が見切れる」)。
もともとの使い方である演劇の世界の「見切れる」の語源としては、舞台裏や舞台袖を観客の視線から隠す道具の「見切り」に由来するという説があります。
歌舞伎の舞台で、山や建物の形をした大道具の「切り出し」や「張り物」といった道具のことを「見切り」と呼び、この「見切り」から、裏方の人間などがはみ出して見えてしまうことを、「見切れる」と呼ぶようになったそうです。
もうええわ
もうええわとは、「関西の漫才で、ネタの最後に行われる締めのボケのあとのツッコミとしてよく使われるフレーズ」です。
関西弁では、もうええわ、という締め方以外に、やめさせてもらうわ、という表現もあり、関東の場合は、いい加減にしろ、もういいよ、もういいぜ(サンドウィッチマン)などが使われます。
もうええわ、というのは漫才の締めの言葉として定番中の定番で、M-1の決勝進出者の大半が、もうええわ、というフレーズを使っています。
ミルクボーイが優勝した2019年のM-1では、9組中6組が「もうええわ」を締めの言葉として選んでいます。さらマヂラブが優勝した去年のM-1に至っては、派生である「もういいよ」や「もうええ」を加えると、なんと10組中8組が「もうええわ」で締められております。
お笑いコンビEXITは、もうええわの代わりに、「お後がヒュウィゴー」を使っています。
もうええわ、という締め言葉が、漫才の世界でいつから使われているのか、誰が最初に言いだしたか、ということはわかっていません。
モノマネ
モノマネとは、「有名な人や動物の身ぶり、しぐさ、声、セリフなどを真似ること、その芸のこと」を意味します。
モノマネを主体とする芸人さんを、モノマネ芸人と呼びます。
日本を代表する有名なモノマネ芸人としては、コロッケさんやホリさん、原口あきまささんなどがいます。
代表的なモノマネでは、明石家さんまさんや武田鉄矢さん(金八先生)などがあり、逆に「細かすぎて伝わらない」というマニアックだったりニッチなモノマネなど、モノマネ芸も多様化しています。
ら行
ラジオネーム
ラジオネームとは、「ラジオにハガキやメールを送る際に使う、投稿者のペンネームのようなもの」です。
芸人さんのラジオにメールを送りたいとき、まず最初に悩むのがラジオネームです(参照 : 思いつかない人を支えたい!面白いラジオネームを155個考えてみた)。
録音笑い
録音笑いとは、「バラエティ番組などで、予め録音してある笑い声を足す編集」を意味します。
笑い声を足すことで、視聴者に、「ここで笑うんですよ」という道案内をする効果があります。
録音笑いは、一体いつから存在するのでしょうか。
海外が発祥で、テレビ番組の技法として初めて録音笑いが使われたのは、アメリカで1950年に放映されたシチュエーション・コメディ『ザ・ハンク・マッキューン・ショウ』と言われています。
ヨーロッパでも使われ、日本でも『ドリフ大爆笑』をきっかけに普及していきます。
笑い声を足す編集や「へぇー」「えー」といった声は、視聴者のあいだでも「うるさい」「うざい」といった批判の声もあるなど、賛否両論が分かれます。
わ行
ワイプ
テレビ業界のワイプとは、「番組内で、右上や左上などに小窓状に映像を表示すること」を意味します。
番組のなかで、別のVTRを出演者が観ている際に、その出演者のリアクションなどがわかるように、小窓状に小さな画面が映されます。
視聴者からは、ワイプが邪魔だ、うるさいなど、批判されることも少なくありません。
それでは、ワイプは一体いつから使われるようになったのでしょうか。
わかりやすさや、スタジオの反応を伝えるために、ワイプというものがテレビで積極的に活用されるようになったきっかけは、『世界まる見え! テレビ特捜部』です。
この番組の第二期レギュラー放送が始まった1990年代初頭に、担当プロデューサーだった元日本テレビの吉川圭三氏が、現代頻用される「ワイプ」を発明します。
今では、この小さな窓でどれくらい豊かなリアクションができるかを「ワイプ芸」と呼び、ワイプ芸の得意な芸人を、「ワイプ芸人」と言います。
番組制作者が、以前語っていたワイプ芸の得意な芸人さんとしては、フットボールアワーの後藤さん、オードリーの若林さん、バナナマンの設楽さん、ビビる大木さんなどの名前が挙がっています。
芸人さん以外でも、アイドルなどにワイプ芸が求められている傾向にあります。
逆に、愛想笑いのようなワイプ芸をしないと語っている芸人さんとしては、有吉さんや千鳥の大悟さんがいます(参照 : 千鳥大悟 8年前に語っていたワイプ芸への本音 「そのままをいくよっていう宣言」)。